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福島地方裁判所 昭和35年(わ)106号 判決

被告人 三瓶秋男

昭四・一一・三〇生 電工

主文

被告人を懲役壱年参月に処する。

未決勾留日数中六拾日を右本刑に算入する。

訴訟費用は全部被告人の負担とする。

理由

被告人は

第一、大槻太重が福島県信夫郡吾妻村大字笹木野字中金谷六十八の一番地大谷組こと大谷忠方鳶職茅根一二に殴打され受傷したうえ腕時計を喪失したことについて憤慨の余、右大谷に交渉し場合によつては同人を少し脅かしても治療代等の弁償を受けようと考え昭和三十四年十二月十日その旨を被告人に打明けるや被告人は之を諒承し大槻外五名と意思を共通にし七名相携えて同日午前九時四十分頃右大谷方に赴き同所において被告人ら七名のうち誰かが大谷及び居合せた茅根その他大谷組の人夫二、三名に対し「誰だ、どいつだ」と怒鳴り被告人において所携の全長約六十糎位の刀を約三十糎位引き抜いて「この野郎やんのか」と云い乍ら右人夫らに迫り、更に大谷に対し「親父はどこだ」と申し向け右七名のうち加藤五郎と安田喜助において大谷に前記大槻の受傷及び時計喪失の件を訴え筋道を通して貰いたいと述べて暗に金員の交付を促し、大槻も亦加藤、安田の両名の傍に座つて前記日本刀を膝の上に置くなどして交渉を続け、結局大谷をして右の如く数人の男が押しかけ日本刀を示して脅かしたうえ交渉に入り金員を要求する状況から若しその要求を容れないときはどんな危害を加えられるかも知れないと畏怖の念を起させ因つて同日午後四時過頃同所において同人から現金二万円の交付を受け之を喝取し、

第二、本間信雄と共謀のうえ、昭和三十三年八月八日頃午前零時過頃福島市早稲町十八番地旅館業吾妻屋こと阿曽今朝吉方において油井寛に対し同人の同旅館に対する宿泊代金の支払を催促していた際、右油井に対し刃渡約二十数糎のあいくちで切りつける態度を示しもつて兇器を示して同人を脅迫し、

第三、法定の除外事由がないのに昭和二十九年七月頃から昭和三十四年五月二十日頃迄同市荒井字中町裏一の四番地の当時の被告人住居に、更に引続き同日頃から昭和三十五年一月十一日までの間同市仲間町二十一番地青木伊勢次郎方の被告人の住居に刃渡約十九・五糎のあいくち一振(昭和三五年押第五三号の一)を蔵置し、更に昭和三十四年八月下旬頃から同年十二月十日までの間前記青木方の被告人の住居押人に刃渡約五十糎の刀一振を蔵置して各所持した。

(証拠省略)

法律に照すと被告人の判示第一の所為は刑法第六十条、第二百四十九条第一項に、同第二の所為は暴力行為等処罰に関する法律第一条第一項(刑法第二百二十二条第一項)罰金等臨時措置法第二条第一項、第三条第一項第二号に、同第三の所為は銃砲刀剣類等所持取締法第二条第二項、第三条第一項、第三十一条第一号、罰金等臨時措置法第二条第一項にそれぞれ該当するところ、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから第二及び第三の各罪については懲役刑を選択し同法第四十七条本文第十条に依り最も重い判示第一の罪の刑に法定の加重をした刑期範囲内で被告人を懲役壱年参月に処し、刑法第二十一条に依り未決勾留日数中六拾日を右本刑に算入し、訴訟費用は刑事訴訟法第百八十一条第一項本文に則り全部被告人の負担とする。

検察官の主張に対する判断

検察官は判示第三の所為中被告人が昭和三十四年八月下旬頃から同年十二月十日までの間福島市仲間町二十一番地青木伊勢次郎方被告人居宅の押入に刀一振を所持した点(以下甲の行為と略称する)を昭和三十五年十月八日付起訴状第二の事実として、又同じく昭和二十九年七月頃から昭和三十四年五月二十日頃までの間同市荒井字中町裏一の四番地の被告人居宅に他のあいくち一振を所持し更に引続き同日頃から昭和三十五年一月十一日までの間同市仲間町二十一番地の前示青木方被告人居宅に右あいくちを所持した点(以下乙の行為と略称する)を昭和三十五年十月二十五日付起訴状の第二事実としてそれぞれ公訴を提起したうえ此等二つの事実は併合罪の関係に在る旨を主張するから按ずるに甲の行為における刀の所持と乙の行為におけるあいくちの所持とは場所的に同じ仲間町二十一番地の青木方の被告人居宅であつたことがあり而も時間的にも競合する部分が存することが前記認定のとおり明かである。斯様に同一場所において時間的に重畳して銃砲刀剣類を所持する行為は社会通念上之を包括して一個の所持と認めるべきものである。(昭和三四年(う)第三三二号昭和三十四年十月十三日仙台高等裁判所第二刑事部判決参照)。(因みに乙の行為における前後場所を異にする同一物体の引続く所持を単純一罪と見るべきことは勿論である。)然らば甲乙の各行為は之を包括して一罪と解さなければならない。甲、乙の各所持が同じ被告人居宅内で蔵置場所を異にするか否(本件では証拠上異にするものと認められる)は右結論を左右するものではない。而して右の如く前後の各起訴に係る行為を合して一罪と認定処断するに方つては後者の起訴につき公訴棄却の言渡を為し、又前者の起訴について訴因の追加を為すことを要しないと解すべきものである。(昭和三五年(あ)第六四号昭和三十五年十一月十五日最高裁判所第三小法廷決定参照)。

よつて主文のとおり判決する。

(裁判官 菅野保之)

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